ヒトのすばやい動作での巧みさの研究は、急速動作の直前に出現する筋放電休止期(動作前:Pre-Motion Silent Period : PMSP)を手がかりに進められている。しかし、PMSP出現中の筋動態の変化については不明な点が多い。そこで、本研究の目的はすばやい随意動作における筋収縮動態を明らかにする事とした。実験1:男性被験者6人に、直立姿勢から50゜膝関節を屈曲した姿勢を保持させ、反動用いず任意で素早く跳躍するように指示した。試技はPMSPが10回出現するまで行った。超音波画像は外側広筋から記録し、外側広筋の筋束と腱膜の交点が筋伸張(弛緩)方向へ移動する距離を測定した。筋電図は、外側広筋、大腿二頭筋から導出した。PMSP出現時の全ての試技で、外側広筋は筋弛緩方向への移動が確認され、その移動距離は1.0±0.3mmであった。実験2:男性被検者9名に20%MVCの持続的な筋収縮を数秒間行わせた後に、出来るだけすばやい底屈方向への筋力発揮を行わせた。筋電図は内側・外側腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋から導出した。超音波画像は内側腓腹筋から記録し、筋束と腱膜の交点の移動距離を測定した。PMSPが出現した動作では張力の立ち上がり速度が増大した。PMSP出現後に筋束と腱膜の交点は遠位方向へ移動した。交点移動距離とPMSPの持続時間および張力の立ち上がり加速度の間にはPMSP出現時のみ有意な正の相関関係が認められた。また、弛緩動作とPMSP出現時の交点移動距離および速度を比較すると類似していたことから、PMSPが出現にともなう、筋動態の変化は伸張(ストレッチ)動作と言うよりも、弛緩動作であると推察される。
|