本研究は、運動時に末梢で起きた代謝変化が求心性情報として中枢神経系からの遠心性指令に及ぼす影響を表面筋電図から検証するものである。疲労した筋から導出される表面筋電図の解釈は非常に複雑になるため、疲労運動後の非活動筋から導出される表面筋電図に注目して研究を進めることとした。今年度は、8名の健常男性を被験者として脚ペダリング運動後の最大等尺性肘関節屈曲時における筋力発揮及び表面筋電図活動を検討した。各被験者のVT、70%VO_2max、80%VO_2maxに相当する強度で脚ペダリング運動を実施し、脚ペダリング運動直後、5分後、10分後の最大等尺性肘関節屈曲時における筋力発揮及び表面筋電図活動を記録した。脚ペダリング運動による血中乳酸濃度、酸素摂取量、心拍数の変化は3条件で有意な差(p<0.05)が見られた。また、Borgのスケールを用いて評価した脚ペダリング運動後の疲労感(全身・脚)にも3条件で有意な差(p<0.05)が見られた。しかしながら、脚ペダリング運動後の最大等尺性肘関節屈曲時における筋力発揮及び表面筋電図活動には、運動直後、5分後、10分後のいずれにおいても3条件で有意な差(p>0.05)は見られず、脚ペダリング運動前の値から有意な変化(p>0.05)を示さなかった。これらの結果から、脚ペダリング運動の強度の違いによって引き起こされる全身性と局所性の要因を含む代謝変化は、非活動部である肘関節での随意性屈曲運動時における筋力発揮及び筋動員に影響を及ぼさないことが推察される。今後は、脚ペダリング運動による代謝変化を筋内pHだけに絞り、局所性の代謝変化が非活動部による随意運動時の筋動員に及ぼす影響を明らかにしていく。
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