大脳皮質運動野、脳幹にある赤核、網様体からの下行路が、いかに協調して上肢の巧みな運動制御を行っているかを解明することは脊髄損傷後の回復過程で皮質脊髄路以外の経路がどのように補完的に働くかについても重要な知見をもたらす。こうした複数の下行路の役割を明らかにするために、本研究では皮質、皮質下由来の下行路を刺激して、脊髄運動ニューロンへの直接路と介在ニューロンを介した間接路への投射を同定する手技を確立し、さらに覚醒動物の随意運動中のこれらの投射先のニューロンの活動様式を明らかにすることを目指した。平成21年度は2頭のサルに慢性的に脳幹への電極を留置する外科的手技を行った。1頭へ錐体路への留置手技に成功し、その電気刺激効果を上肢の誘発運動の観察、筋電図による誘発電位を記録し、その閾値や刺激-誘発電位の関係を6ヶ月以上継続して観察した。結果、運動の誘発される閾値、刺激-誘発電位の関係を6ヶ月以上安定して観察し、動物の容態も極めて安定していた。現在、赤核への電極留置術について継続している。加えてこのサルにモンキーチェアにて到達-把握運動をできるようにトレーニングを行い、成功している。本研究は今後、上肢筋群への筋電図埋め込み、さらに脊髄記録装置を装着する外科手術を行い、そしてタスク実行中のサルの頚髄から到達-把握運動に関連して反応を示す脊髄運動、介在ニューロン活動を記録し、さらにそのニューロンへの投射を各下行路から電気刺激を行うことで同定する。これにより筋-脊髄-下行路と3層の運動制御に関わる復するの階層の機能的役割を明らかにしていく。
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