研究概要 |
近年,現行のノイマン型逐次処理計算方式はその限界に達しつつある.そこで本研究では,実用面で不可避的に存在する雑音を有効に利用するということを念頭に置き,非線形ダイナミクスの分野で盛んに研究されている雑音誘起現象に着目する.特に,(1)従来の確率的情報処理の理論にノイズ同期現象を組み合わせる,(2)確率共振現象を利用した論理演算法を遺伝子ネットワークモデルへ応用することにより,新たな計算アーキテクチャを構築することを目指す.まず前年度に引き続き,計算万能性をもつ確率的トークンベース計算システムを,決定論的カオス力学系によって実装するモデルを考察した.ここでは,カオス力学系における共通ノイズ同期現象をカオス的ゆらぎにより駆動して,確率的ゆらぎを用いずに計算システムの基本モジュールを構成した.さらに,モジュール間結合に関して,トークン信号の局所的な干渉を避けて大規模なネットワークを構築しうる手法を提案した,次に,近年注目を集めている確率共振現象を利用した二値論理ゲートの構成理論を,トグルスイッチなどの遺伝子ネットワークの理論モデルにおいて実装した,これにより,高次元システムの新たな並列処理方式の可能性を見いだした.本成果の意義は,従来の確率的ゆらぎにはない,カオス(決定論的)ゆらぎの利点を活かした計算システムの新たな構築可能性を見込める点である.さらにその計算システムをベースに確率的要因を考慮することで,確率論と決定論の相乗効果も期待できることである.また,遺伝子ネットワークの理論研究は実験的に遂行可能性があり,その大容量並列処理能力という観点からも重要である.この他には,大規模ネットワークの動作解析の一環として,ランダム結合のニューラルネットワークにおける不規則な発火ダイナミクスのパターンとそのエネルギー効率に焦点を当てた研究を遂行した.
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