申請者は当該年度、脊髄機能変化時の発現遺伝子の網羅的解析に用いる適切な2種類の動物モデルを作成し、妥当性を検証した。条件検討の結果、リハビリテーション完全除去モデルの作成は、SDラットの第10胸髄に軽症の圧挫損傷を与え、後肢の荷重が回復する損傷後約7日目よりTail-suspention法を用いた後肢挙上を2週間継続し、挙上終了後は通常ケージ内にて6週間飼育して妥当性を検証した。通常ケージ内にて同期間飼育した脊髄損傷ラットを比較コントロールとして運動機能・体重・筋量について比較検討したところ、後肢の運動機能評価(BBBスコア)は有意に低下し、体重・筋量は明らかな差を認めず、リハビリテーション完全除去モデルとしての妥当性を評価した。しかし、個体数の増加に伴い、後肢挙上終了後より強い痙性が残存するラットの発生を一定の割合で認め、運動機能評価が困難な個体を認めた。重症の圧挫損傷ラットでは自然経過中に痙性を示す傾向があることより、より適切なモデル群を作成するためには後肢挙上前に重症度についてスクリーニングを行い、損傷度の個体間差を減少させる手段が必要であると考えた。スクリーニングの手段として電気生理学的解析法やバイオマーカー測定などを今後検討していく予定である。さらに、痙性と運動機能回復との関連については今後の研究課題となった。また、損傷部の組織学的評価では既知の軸索伸長関連分子を中心に複数のマーカーについて解析を進めているがこれまでに明らかな変化を認めず、網羅的解析へ進めるための分子の探索を継続している状況である。結果として実施計画に準じ期間内に到達目標に達することは出来なかったが、解析を可能とするモデルの作成に成功し、損傷早期からの後肢の荷重感覚入力が損傷後の運動機能回復に影響を及ぼす可能性を示すことができた。今後は今回獲得した知見およびモデルを用いてこの研究を包括的に解析し、リハビリテーション効果促進に繋がる分子の同定を目指して解析を進めていく所存である。
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