宇宙飛行士に生じる筋萎縮のメカニズム解明にメダカをモデル生物として用いれるかを検討するため、本研究では筋活動変化によってメダカ骨格筋がどのように変化するかを調べた。メダカ骨格筋凍結切片を作製し、免疫組織化学的染色によって遅筋・速筋を検出した。また、レーザーマイクロダイゼクションによって遅筋・速筋を分離して回収し、筋萎縮時に高発現することが知られているユビキチンリガーゼ発現をリアルタイムRT-PCRによって検出した。 免疫組織化学的染色において、F59抗体によって速筋がS58抗体によって遅筋がそれぞれ鮮明に染色された。速筋はメダカ横断切片全体に分布していたが、遅筋は胸ヒレ付近にはほとんど分布していなかった。遅筋の分布はメダカ背筋付近に見られたが、その割合は非常に少なかった。また、S58抗体で染色された筋線維はF59抗体でも染色された。このことによって、メダカの遅筋線維は遅筋特有のミオシン重鎖タンパクのみでなく速筋特有のミオシン重鎖ダンパクも発現しておりハイブリット筋線維だと考えられる。同一個体内での遅筋線維と速筋線維の横断面積を比較すると遅筋線維が著しく小さいことが判明した。レーザーマイクロダイセクション装置(Leica LMD6000)を用いて、低温飼育群と対照群の凍結切片よりメダカ速筋・遅筋部分を別々に採取しatrogin-1の遺伝子発現を定量した。その結果、低温飼育群の速筋線維ではatrogin-1の発現が上昇していた。 以上の結果より、メダカでは遅筋特有のタンパク質のみを発現している筋線維は胸ヒレ付近ならびに背筋付近には分布しておらず、ハイブリット筋線維が背筋付近にわずかに分布している。また、ハイブリット筋は速筋線維に比較して著しく細い線維であることが判明した。低温飼育により速筋においてはユビキチンリガーゼであるatrogin-1の発現が上昇しており、より筋萎縮が生じやすい状態であることが考えられる。
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