現在、アジア・アフリカ地域の経済発展は著しく、その環境汚染もまた、我々の予想を遥かに凌駕する速度で進行している。とりわけ、アフリカ地域の汚染状況は、極めて限られた情報しかなく、その独特で希少な生態系にどのような影響が出ているのか、また、ヒトにどのような被害が出ているのか未だ明らかでない。本研究では「化学物質を起因とする野生動物の病態」の中で、特に集団感染に関与している「免疫かく乱」に焦点をあて、その現状をフィールドレベルで調査・研究することを目的とした。調査対象地であるザンビア共和国において、野生動物および家畜であるウシを採材し、環境汚染物質の定量分析を行うと共に、環境汚染バイオマーカーであるMetallothionein(MT)及び免疫抑制因子の一つであるサイトカインの発現量解析を行った。まず、家畜であるウシに注目し、そのスクリーニングを行った結果、鉱業活動が盛んなKabweでは、他の地域に比べ、血中の鉛(Pb)濃度が有意に高く、更に、バイオマーカーであるMTや炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン-6のmRNA発現量が有意に上昇していることが明らかになった。次に、野生ラットに注目し、同様のスクリーニングを行った結果、Kabweにおいて、他の地域に比べ有意にMTのmRNA発現量が上昇していたと共に、腎臓中のPb濃度と体重に負の相関が観察された。すなわち、KabweではPbを始めとする重金属類が、実際に生体レベルで炎症や体重増加抑制といった毒性影響を与えていることを示唆していた。これら得られた免疫かく乱の結果と土壌中重金属濃度のGIS解析の結果を併せて解析した結果、土壌の汚染分布と生物中蓄積濃度やMT発現量との間に相関は見られず、摂餌などのその他の要因の影響が強いことが示唆された。
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