本研究はナショナル・アイデンティティの観点から、20世紀初頭から現在に至るまで、日ロ・日ソ関係の分析を行った。ここでは、アイデンティティを「自己」という自らの社会や国家に関する共通認識を「他者」との関係において形成した流動的且つ複合的な言説として捉えた.このような分析枠組みを適用し、公的文書と並んで、文学作品、学術論文、新聞記事、などという一次資料の分析を通して、両国関係係における「自己」と「他者」という構造の一部を明らかにした.日本のナショナル・アイデンティティにおいては、主に戦後期に着眼し、冷戦及び国内の保守勢力と革新勢力の闘争を背景にソ連・ロシア論の展開を分析した。更に、北方領土問題という文脈において、アイヌ民族権利回運動のイデオロギーと日本におけるロシア論との関連を分析した。ロシア・ソ連のナショナル・アイデンティティの分析に当って革命直後の時期に焦点を絞り、ボリス ピルニャクという作家の日本及び中国の印象記を分析した。その背景としてロシアの革命前の東洋と日本の認識及び革命後の民族、人種、階級、資本主義と社会主義という主な言説の展開を描き、この文脈におけるピリニャクの日本及び中国の認識の類似性及び相違性を分析した。
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