この研究では、神経細胞ネットワークに見られるような、生化学反応に基づいた情報処理を行うことができる生体情報処理系をin vitro環境で開発するために、情報処理の基本単位となる生化学反応系を確立することを目的としている。とくに反応系としてDNA増幅反応に注目し、そのDNA増幅反応を利用して生体内で見られる遺伝子発現制御ネットワークのようなシステムをモデル化し再現することができる化学反応ネットワークを構築することを目標に研究を行っている。昨年度は簡単な化学反応振動系を構築することに成功した。今年度はさらに複雑なネットワークを構築することのできる化学反応系にトライした。ある反応ユニットからの信号によって他方の反応ユニットの機能を抑制する、あるいは鈍化させるという化学反応ネットワークを構築する必要があるが、そのために3'末端付近に不適性塩基対を持ったオリゴヌクレオチドを生成するような反応ユニットを作ることで解決した。また、反応系をダイナミックに維持するためには、ヌクレオチドが選択的に破壊され、反応系が初期状態に戻るというプロセスも実現する必要があるが、それには選択的エクソヌクレアーゼによって実現することができるはずであり、そのためにはDNA増幅時における温度上昇に対してそれらを安定化させるという工夫が必要である。最後に、実際に双安定スイッチと論理ゲートというネットワークの構築を試み、その実証に成功した。
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