本研究は、半導体量子構造内における電子の高速ダイナミクスを高速エレクトロニクスによって精密に制御・観測することを目的としている。当該年度は、本研究で中心的な課題として設定した、(1)量子ホール端状態における電子波束(エッジマグネトプラズモン:EMP)のFabry-Perot型共振器(FP共振器)の作製、(2)その共鳴現象の観測による量子ホール端状態上の電子ダイナミクスの評価に取り組んだ。 (1)エッジマグネトプラズモンのFabry-Perot型共振器の作製:量子ポイントコンタクト(QPC)を用いてEMPを環状の量子ホール端状態に閉じ込めることにより、FP共振器を作製した。この過程において、EMPに対するQPCの透過特性を明らかにした。特にQPCを介したEMPの静電的結合のメカニズムを解明した。この成果について、雑誌論文(1件)、国内(1件)・国際学会(2件)において発表を行った。 (2)FP共振器の共鳴現象観測による量子ホール端状態上の電子ダイナミクス評価:作製したFP共振器の共鳴現象を観測することにより、EMPの伝搬速度など電子ダイナミクスの評価を行った。この過程でEMP同士の干渉が実現可能であることを示し、また伝搬速度を制御することによりFP共振器の共鳴周波数の変調が可能であること、複数の共振器を隣接させることにより結合共振器系が作製可能であること、などを示した。この成果は雑誌論文(1件)、国内(1件)・国際学会(2件)において発表を行った。 (1)(2)の他にもメゾスコピック系の雑音測定系の開発にも取り組み、国内学会(1件)にて発表を行った。これらの成果は電子のコヒーレンスを利用した新しい量子エレクトロニクスの基礎を担う可能性のあるものであり、当該分野の今後のさらなる発展を予感させるものである。
|