本研究の目的は、マレーシアの低開発地域における開発過程と、それに対する地方の論理を、地域間比較を行いつつ、歴史的パースペクティブの視点から明らかにしようとするものである。研究の発想の原点には、国家主導の開発により東南アジアの優等生となったマレーシアの政治が中央で語られることが多く、地方政治の実態が明らかにされていないことがある。ここでは、多民族国家マレーシアにおいて優勢/優位な民族であるにかかわらず経済的・社会的に劣位にある地方のマレー人州を対象とした。 平成21年度においては、貧困撲滅と社会再編を目的とした新経済政策(マレー優遇政策・ブミプトラ政策)にもとづく開発過程と政治経済の展開に焦点を絞って、長く調査を続けているトレンガヌ州を中心に、1)国家による地方への開発計画の浸透と地方開発実務者の開発観との異動、2)開発の現状と成果、3)開発過程における補助金制度の浸透についてフィールド調査と文献調査を行った。また、クランタン州、ケダ州において比較調査を行った。トレンガヌ州における調査成果の一部は、『東南アジアにおける自治体ガバナンスの比較』に、また『国家と経済発展』の1章として刊行される。調査が進展するにつれて、研究計画において副次的に位置づけていたイギリス植民地時代の開発政策の重要性を確認することになった。そのため、2年目の平成22年度(最終年度)は当初予定した期間より少し長めに行政資料調査をイギリス文書館で行い、より歴史的パースペクティブの視点から、地方における開発過程の分析をすることにする。一方で、現地においては、開発の浸透の中で台頭してくるイスラーム野党地方政党政治の展開と社会の対応について、フィールド調査と文献調査を行い、歴史の中に位置づける作業を進める予定である。
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