本研究の目的は、マレーシアの低開発地域における国家主導の開発過程と、そこで展開される地方政治および地方行政の変化・再編過程について、歴史的パースペクティブの視点から明らかにすることである。その背景には、東南アジアの優等生となったマレーシアの政治が中央で語られることが多く、地方政治、地方行政の実態が明らかにされていないことがある。ここでは、国家の基本政策として現在なおその理念が継続されている新経済政策の実行過程において最大の受益者であり、それにもかかわらずその低開発地域居住者が多いマレー人に焦点をあてた。 前年度は、マレーシアの開発の指針となる新経済政策にもとづいた開発体制の浸透と、それにともなう地方の政治経済的変化に焦点をあてたのに対して、平成22年度においては、前年度検証した独立後の開発行政をより明らかにするために、イギリス植民地時代の開発行政についての文献調査を行うことをした。他方、当該地における現在の地方行政・地方政治の展開について、中央-地方関係の視点から現地調査と文献調査を行った。とくに、開発の浸透と成功により中央政府(連邦政府)の政権維持を強めるマレー与党UMNOと、開発の浸透とイスラーム復興主義の影響を受けて台頭してくるイスラーム野党の緊張・競合・対立の過程について、さらにアジア通貨危機以降の地方政治の変化とその特色を、主にトレンガヌ州の事例より検証した。 その調査結果の一部は、『国家と経済発展』第5章「ブミプトラ政策の成功と限界」として刊行された。また、2010年度アジア政経学会(平成22年6月、於北大)および2011年度米国アジア学会(平成23年4月、Honolulu Convention Center)において発表された。
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