本研究の目的は、液中原子分解能FM-AFMと蛍光プローブ標識法により計測されるモデル生体膜中の分子拡散挙動をすべて同じ実験条件で正確に比較することで、分子拡散計測法としての信頼性を検証することが目的である。本年度(平成21年度)は、二つの計測手法を同じ実験条件での比較するために、どちらの手法にも使用することができる計測用セルの設計・製作を行った。この計測用セルの中央部にマイカ基板を固定し、そのマイカ基板上にモデル生体膜として用いる脂質二重層を形成するデザインである。また脂質二重層形成の再現性は分子拡散計測データの定量性を左右するため、マイカ基板上に脂質二重層を1層のみ形成することができる調製条件の検討を本年度の中心課題とした。具体的には、脂質二重層形成に使用する溶液としてモデル生体膜研究で広く用いられるHEPES緩衝液・リン酸緩衝液を選択し、添加する塩化ナトリウムでイオン強度を変化させながらマイカ基板上に形成される脂質二重層の分子スケールでの形状、被覆率、物理的性質を液中FM-AFMにより高分解能観察した。その結果、HEPES緩衝液・リン酸緩衝液のどちらでも被覆率が高く、脂質二重層を1層のみ形成できる条件をほぼ確立した。この結果、再現性良くモデル生体膜を調製できるようになり、両計測手法で求められる分子拡散速度をより正確に比較することが可能となった。来年度(平成22年度)は、本年度の成果をもとに再現性の高い脂質二重層を調製し、蛍光プローブ標識法と液中原子分解能FM-AFMにより計測される脂質拡散挙動を正確に比較することで、分子拡散計測法としての信頼性を検証する。
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