研究概要 |
本研究では、これまで汚染物質または地球科学的ツールとして一般的に認識されてきた"環境中のU同位体U-234,235,238"に、近年の測定技術開発に伴い注目されているU-236を、新規に"環境中のU同位体"の一つに加え、新たな知見からの地球環境科学的研究を行うことを最終的な目的とする。その一つの応用例として本申請では、U-236と他の放射性核種も含めた総合的な時・空間的解析から日本海における詳細な物質・海水循環の解明を目指す。 昨年度得られた"環境中U-236はすでに大気圏内核実験によるグローバルフォールアウトとして世界中に降下している"という結果および海水中ではUは保存性元素として挙動するという報告を踏まえて、本年度は、実際に日本海での海水、浮遊懸濁物質、堆積物の広範囲にわたるサンプリングを約一カ月にわたる航海にて行い、併せて200以上のサンプルを採取した。これら試料からの人工および天然放射性核種の濃縮・精製を行いU-238、U-236、Cs-137、Pu-239、Pu-240の分析をGe半導体検出器、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)、AMS(加速器質量分析計)を用いて行った。その結果、世界で初めて通常の環境海水中のU-236深度分布を広域にわたり得られ、AMS国際学会においてhot topicsとして取り上げられすでに注目されている。得られたU-236の水平・垂直分布を他の代表的なグローバルフォールアウト核種と比較すると、保存性放射性核種であると報告されているCs-137と基本的な分布は類似しているものの、完全に一致しているわけではないということが明らかになった。また、これらの結果および昨年度の結果を併せると、1960年代に海洋表層に降下したU-236は基本的には拡散で深層まで移動していると予想され、日本海の中央付近ではとくに、激しい上下混合は存在していないという事がわかった。また、今回の採取地点では沈み込みによる新しい表層海水の底層への供給は見つからなかった。
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