本研究では、環境微生物群の汚染物質暴露に対する遺伝子応答を網羅的に検出する手法(メタトランスクリプトミクス)を確立し、複合汚染の現場生態系に及ぼす影響をより総合的に評価することを目的としている。22年度は、新規に採取したヒ素やセレン等の有害元素を含む塩湖の底泥及び周辺土壌を用いて、メタトランスクリプトーム解析用試料調整の検討を行った。環境サンプルを現場でLifeGuard(MoBio)とRNAlater(ABI)のRNA保存剤に採取し、室温で約7日間保存後RNA抽出時まで-20度で冷凍保存したところ、同一サンプルの比較においてLifeGuardで保存したサンプルは約10倍高いRNA収量を示した。環境RNAをランダムプライマーにより逆転写し、次世代シーケンサーで直接解読したところ、得られた全配列(約30Mb)のおよそ94.5%はリボソーマルRNAであった。rRNAの系統解析により、現場環境ではBacteriaが優位に存在し特に好塩・好アルカリ菌であるHalomonasやBacillusの活性が高いことが示されたが、機能遺伝子発現解析の効率化にはrRNAの特異的除去に向けてさらなる工夫が必要である。データベース解析により、全トランスクリプトーム中3.5%の配列が機能遺伝子として特定された。環境サンプル中で発現の確認された機能遺伝子グループとしては、エネルギー生成・代謝やタンパク質合成など微生物の生命維持活動に関わる機能に加えて、重金属耐性や代謝のような暴露に対する特異的応答と考えられる機能も検出された。21年度に解析したヒ素等の重金属を含む高温温泉群のトランスクリプトーム比較解析においても同様の機能遺伝子群の特異的発現が検出されたことから、これらの遺伝子群は有害元素複合汚染特有の毒性に対応する指標マーカーとして有用である可能性が示唆された。
|