今年度は主に前年度に収集した資料の読解に当たり、それを論文にまとめる作業を行った。前年度の調査で韓国のキリスト教・宣教師関連の文献が多数復刻・出版されていることが判明したため、調査旅費を資料購入費へと振り向けることにより研究の効率化が図られた。 今年度の研究で明らかになったことは、以下の通りである。まず、韓国にキリスト教が伝来した植民地期の初期においては、韓国教会は欧米人宣教師の指導の下、できるだけ政治に関与することを控える脱政治的傾向を強く有していた。これは、宣教師がキリスト教の目的を個人の内面的・霊的な救済であることを強調し、社会・政治運動に係ることは世俗への執着として退ける指導を行っていたからである。この結果、日本が韓国の植民地化に向けた動き始めた1900年代に入っても、韓国のキリスト教会は政治運動には関心を向けず、1905年に日本の統監府が設置され、韓国の主権が実質上奪われた後になっても積極的な独立運動に参加することはなかった。むしろ、日本への武力抵抗を主張する義兵運動の指導者に対して、教会の指導者が抵抗を止めるように説得工作を行っていたことも史料から確認できた。他方で、一部のキリスト教徒が抗日独立運動への関心を見せたことも事実もあるが、これらの指導者は政治参与に対して否定的な教会指導者、とりわけ教会の統治権限を独占していた宣教師により、教会から排斥されており、決して教会を代表して行動していなかった。これまでの研究では、キリスト教的な背景を持ちつつ独立運動に参加した人物を、韓国のキリスト教の代表と理解してきたが、実際に彼らは教会の指導層から排斥されており、韓国教会全体はあくまでも政治活動に対しては無関心だったのである。この研究結果は、既存の通説に根本的な修正を迫るものであり、筆者はこの事実を今年度中に内外の学会で発表し、多数の研究者からの支持を得た。そして最終的な成果を筆者の英文博士論文で近日発表予定である。
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