本研究では、近代エジプトにおける経済的エリートや大地主のデータベースを作成し、本研究代表者がこれまでの研究で既に完成させた議会エリートデータベースと併せて総合的に分析することで、近代エジプトのエリートネットワークが政策決定に与えた影響を明らかにした。特に成果を上げたのが、王制期の代表的支配階級である大地主がナセルの農地改革政策に与えた影響である。「封建制打倒」を目的に実施されたはずの農地改革であったが、王制期の大地主は一族の土地を同族内に分散相続、あるいは所有地をワクフ登録することによって法の適用を免れていたことを、データを提示しながら実証した。そして、権力の源である土地の離散を最小限にとどめた大地主は、共和国体制のなかでも支配階級として温存されたことを明らかにした。研究期間内では、農地改革政策と王制期のエリートについて考察したが、作成したデータベースは汎用性の高いものであるため、今後のエジプト政治史研究の発展にも大きく寄与するものである。
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