2009年度は、半年間で、海外での学会報告(Finnish Economic Society)、データベースの作成(タイ、インドデータのミクロデータの完成)などを行った。また、現時点では先行研究をまとめたLiterature review、タイとインドのデータを用いた男女賃金格差のペーパーなどを執筆している。なおここでは現時点で分析が終了しているタイの男女賃金格差について紹介することで、本研究の意義などについて解説したい。1980年代後半以降、高度経済成長に伴ってタイにおける男女の平均賃金格差も大幅に改善した。しかし一方で、平均的な賃金増加率などの男女格差は、ほとんど変化が生じておらず、これは例えば平均的な生涯賃金の格差については改善がそれほど見られなかったことを意味する。生涯賃金格差の変化については、1980年代後半から2004年までのミクロデータを用いたQuantile回帰での推定結果から、どの賃金分位階層においても若干の格差改善は見られるものの、依然としてその格差は大きいことが判明した。つまり、近年におけるタイの男女賃金格差改善は労働市場における女性の相対的な地位の上昇(労働市場環境の質的な改善)によって生じたというよりは、外資導入による雇用機会の増加によって解消された量的な側面の効果が大きい可能性が高い。タイのように外資主導によって経済成長が牽引される国にとっては工場などで働く女性雇用労働の位置づけは非常に重要であろう。しかしこうしたASEAN諸国が導入している経済成長戦略では、20年程度のスパンにおいて女性労働の質的改善は難しいことが浮き彫りになった。こうしたタイの結果を経済発展段階の異なるインドや台湾の経験に照らし合わせながら、本研究の主たる目的であり、これまで議論がほとんどなかった男女格差と経済発展段階の関係性解明について実証的に議論を進める予定である。
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