研究概要 |
ディーゼルエンジンは,高い熱効率のためCO_2排出削減に効果的だが,窒素酸化物(NOx)と粒子状物質(PM)の処理が困難であるという欠点がある.従来の排気ガス処理技術は,触媒被毒による性能劣化や還元剤供給のためのインフラ整備などの問題で完全には満足の出来る技術ではない.本研究ではこれらの欠点を有さない手法として,温度スイング吸着(TSA)による排気ガス成分の濃縮と濃縮ガス成分のエンジン吸気への注入を用いた排気ガス浄化を目指した.研究経過としては,まず,ガスボンベからの標準ガス(NO,O_2,N_2),水蒸気,オゾン発生機からのO_3をエンジン吸気へ注入し,排気ガス成分,燃料消費率への影響を定量的に比較検討した.その結果,NOを注入した場合に注入NOxの最高約35%がエンジン内の燃焼過程において減少し,同時に,酸化性ガスであるO_3やO_2無しでもCOの発生が抑制されることが分かった.一方PMに関しては顕著な低減効果が見られなかった.NOx抑制効果の機構は,燃焼反応解析により解明しつつある.さらに,NO注入によって,エンジン単位出力当たりの燃料消費量が低減されることが判明した.燃費低減量は排ガス組成の変化から理論的に予想される値とほぼ一致した.次に,TSAが可能な吸脱着システムを構築し,吸気ガス注入を行いながら実際に排気ガス浄化を行った.前記の吸気注入実験の結果を踏まえ,このシステムではNOを濃縮・注入することを前提とした.その結果,エンジン内の燃焼過程でNOxの発生が抑制され,排気ガス浄化に成功した.以上の研究結果から,従来処理技術の欠点を有さない手法によるディーゼルエンジンの排気ガス浄化の実現可能性が示された.加えて,このシステムは燃費への悪影響を持たないことが判明した.すなわち,本手法は従来技術に比べてディーゼル本来の低燃費性をより生かせる技術であり,その社会的意義は大きい
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