昭和基地周辺の湖沼に関する各種湖沼学的データ(光環境、水質、水温、栄養塩、クロロフィル濃度、湖岸・湖盆形態)、および湖底植生のデータ(湖底植生の光合成特性、光合成色素/光防御物質、群集の形質、種組成)の纏めを実施し、得られた成果を学会発表、および、論文化し科学雑誌への投稿を行った。そのうち一部は、すでに受理され印刷された。さらに、纏めたデータをもとにして、実際に試料を採取する対象湖沼を選定した。2003年度に、昭和基地の南約70kmに位置するスカーレン大池から採取し、既に炭素同位体年代データが明らかになっている湖底堆積物コア試料を用いて、現場で実際に試料採取する前段階として様々な予備検討を行った。具体的には、堆積物中からの色素抽出条件、高速液体クロマトグラフィーによる最適な分析条件、および植生の分布に関する解析方法の検討である。南極での野外調査を想定した事前訓練を2009年5月~9月にかけて実施したのち、2009年11月24日~2010年3月19日の約4ヶ月間、第51次日本南極地域観測隊に参加し、南極大陸での野外調査を実施した。昭和基地の南に位置する3つの露岩域、ラングホブデ、スカルブスネス、スカーレンをベースとして、湖氷上から穴をあけ、もしくはボート上から全23湖沼の観測を実施し、各種湖沼学的データを獲得した。そのうち19湖沼からは各2-10本ずつ湖底堆積物を採取した。採取した試料は、現場で鉛直的に5cm毎に切断し、遮光下で冷凍保存し国内に持ち帰った。現在まで、これほどの数の湖沼から湖底堆積物試料が採取された例は他になく、持ち帰った試料は極めて貴重なものである。今後、炭素同位体年代、および色素・光防御物質の分析を実施することによって、未だ謎に包まれている南極陸域生態系の発達とその変遷史の解明へとつながる。
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