研究課題
「退耕還林」政策終了後(以下、ポスト「退耕還林」と称す)の耕作再開と水土流失の見込みを調べるため、中国黄土高原の陝西省洛川県と安塞県の農村部において、ポスト「退耕還林」の再耕作に対する住民意識を調査した。また、再耕作の可能性の判断指標として、「退耕還林」に伴う生業転換の成否についても聞き取り調査を行った。以上から推定される再耕作の可能性に、台地面や谷壁斜面など微地形の土地利用特性を加味して、水土流失危険性を評価した。洛川県では、台地面における経済作物(リンゴ)の栽培が現地住民の主要収入源となっており、谷壁斜面での自給作物栽培への意欲は低く、耕作再開とポスト「退耕還林」における水土流失の危険度が小さいと判断された。一方、安塞県では主要収入源は出稼ぎとなっており、一部では耕作の再開を希望する声も聞かれた。安塞県においては代替産業の育成効果が限られているため、ポスト「退耕還林」における水土流失危険度が相対的に大きいと考えられた。中国政府は、退耕還林にともなう耕地面積の減少、農村人口の流出による都市化の加速が中国の食料生産基盤を崩しつつあると見なし、2007年、退耕還林面積の拡大を停止した。2016年の退耕還林政策終了をひかえ、中国政府は、水土保全と食料生産との間で難しい舵取りを強いられていると思われる。中国の食料自給の基盤崩壊を予防するため、今後も、退耕還林による補助金提供の期間が終了した後も、彼らが現地で自給作物の生産を継続する見込みがあるのか、把握していく必要があろう。
すべて 2011
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Transactions, Japanese Geomorphological Union
巻: 32(2) ページ: 129-136