研究概要 |
平成22年度は『日本語と諸言語の指示語の対照について-インドネシア語・韓国語・中国語と-』という論文を執筆した。諸言語の指示語体系には,3系列のものと2系列のものがある。3系列として日本語・韓国語を,2系列としてインドネシア語・中国語を取り上げた。4言語の指示語を扱うことで,3系列と2系列の相違点,3系列同士の相違点,2系列同士の相違点などを洗い出した。 3系列の指示語体系では,距離区分を基準にすれば近称/中称/遠称を持ち,人称区分では近称が話し手の領域/中称が聞き手の領域を指す。一方,2系列の指示語体系では,距離区分を基準にすれば近称/遠称を持ち,人称区分では近称が話し手の領域/遠称が聞き手の領域を指す。ただし,これはプロトタイプであり,3系列にも2系列にも様々なバリエーションが存在する。 例えば同じ3系列でも,記憶指示では,日本語では遠称のアが使われる一方,韓国語では基本的に中称の「〓」が使われる。韓国語の遠称の「〓」が記憶指示に使用されないことはないが,その適用範囲は極端に狭い。 また同じ2系列でも,現場指示において指示対象が話し手から近い場合,インドネシア語では,その対象を聞き手が身に付けていれば,それは"心理的に遠い"と認識され,遠称のituが使われ得る。一方,中国語では,そういう場合でも,近称の「這」が用いられる。遠称の「那」が使われないことはないが,その条件として,話し手にとって指示対象の正体が不明であるといった,さらに"心理的な遠さ"が強調される要因が必要となる。 このように,3系列と2系列の指示語の相違点,3系列同士,2系列同士の相違点を,分析しておくことは,日本語教育において,指示語の誤用を防ぐためのヒントとなる。今回は,主として【ソ→ア】の誤用の原因について分析を行ったが,指示語体系の全体を見渡せた。さらなる分析については稿を改めて論じることにしたい。
|