本研究の目的は、自由および平等という社会の基本的価値を考察したうえで、その二つの価値を布置する正義の輪郭を描出し、社会保障制度や税制に関わる分配的正義をめぐる実践的問題に応答しうる枠組みを提出することである。その目的を果たすために、最終年度である平成22年度は、自由と平等を統合する包括的正義構想を提出するための研究、および、当該構想の実践性や実行可能性について詳細な検討を加える研究を実施した。 その結果、第一に、自由概念と切り離せない責任についての原理的規定を内包する正義構想が、究極的価値として措定しうる平等の統御下で導かれるべきだとする見地を獲得した。これにより、本研究の主目的である包括的な正義構想の提出という目的は果たされたといえる。 第二に、その正義構想が、日本を席巻する自己責任言説や逆に格差社会を忌避する直感的議論に対して、一定の規範的含意を示すものであることが判明した。すなわち、無責任の体系や格差状況への感情的反発を是としない正義としての責任構想によって、貧者を放置してしまうような過酷な政策は推奨されないものの、一方で各自の生き方には責任が付随するという理に適った見解が得られることがわかった。これにより、日本の社会保障制度や税制への改革指針が明確になったといえよう。
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