本年度は、大規模AFN(Alternative food network)におけるオルタナティヴ性alternativenessのもつ意味を、「取引される製品の質」や「ネットワークの質」の観点から検討した。具体的には、1良質食品を市場投入する大規模な食品企業(大規模酒造業者C社)が「良質」概念をいかに捉え、その実現に向けどのような原料生産・調達体系を構築しているのか、2そこでの企業と原料生産者との連関には具体的にどのような個人的紐帯や権力関係が認められ、それらは各アクターの行為にどのような影響を及ぼすのか、3大規模AFNにおける「製品/ネットワークの質」の特徴が、「小規模AFN(地場酒造業者A・B社)にみられるそれ」と具体的にどのように異なるのか、という諸点を明らかにした。 その結果、以下の諸点が明らかとなった。1大規模AFNと小規模AFNの双方において、水平的組織(=主体間の水平的な結びつき)がみられるが、大規模AFNのそれの方が主体間の「強い紐帯」を軸とした凝集性の高いものとなっている。これは、酒米の品質改善に向け、主体間で食料生産をめぐる規範や価値の同質化を図る必要があるためである。2大規模AFNでは、その規模ゆえに、「ネットワーク内の分権的統治」や「酒米の質の均質化」の実現が容易ではない。それゆえ大規模AFNは、組織化・ルール制定による垂直的な統合を図っている。3大規模AFNは、部分的であれ「相互作用を軸とした主体間の水平的関係」を構築している点で、「オルタナティヴ」な性格を有しているといえる。ただし、小規模AFNと異なり、垂直的な「官僚制組織」を内包しているのが特徴である。つまり大規模AFNは、機械的/有機的組織のハイブリッドな形態であるといえる。
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