本課題のテーマであるセラーズの哲学体系について、主として「知覚」と「規範的行為」というテーマに関わる部合の解明を目的として研究を行った。 1.いわゆる知覚経験の選言主義的解釈をめぐるマクダウエルの問題設定を概観したうえで、セラーズにおける「知覚は行為ではなく作用である」というテーゼに注目しつつ、セラーズの知覚論がいかなる意味において「経験の選言主義的理解」を導くのかを明らかにした。セラーズとマクダウエルの関係について、セラーズの複数のテキストを横断しつつ解明する研究は、英米圏においてもまだまだ先行研究の少ないものであり、本研究には情報の少ない分野における貴重な基礎資料を提供するという価値が認あられると考えている。 2.「マクダウエルの考えるセラーズのセラーズ的性格」を扱った上記研究から一歩を進めて、次に「マクダウエルの考えるセラーズと本来のセラーズはどれほど違っているか」というテーマについて考察した。マクダウエルの「ウッドブリッジ講義」におけるセラーズ解釈と批判の内実について、「経験論と心の哲学」と『科学と形而上学』を中心にセラーズ主義者としての立場から綿密に検計する、という研究は、これまた先行研究の乏しい領域における貴重な基礎資料を提供するという価値を認めることができると考えている。 3.「実践的推論」をめぐるセラーズの中心的テキストを横断的に検討し、また、その核心に位置する発想を「するべさであるought-to-doの規則」と「であるべきであるought-to-beの規則」の区別というセラーズ哲学の根本テーゼと連続させる形で明確にした。これもまた、英米圏においてすら先行する研究の見出しがたいテーマに関する基礎資料の提供という意味で、十分な意義を認めることのできる研究成果であると考えている。
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