本年度(平成22年)は、版本調査を通じて朝鮮における荀子書の流通状況を解明するとともに、朝鮮荀子学関連記事を収集・整理し「朝鮮荀子学資料集成」を作成した。まず、版本調査では昨年度の目録調査を踏まえて韓国・日本・台湾の図書館・研究所・博物館など各機関に所蔵されている『荀子』版本を実査し、書誌学的な研究を行った。調べたところでは朝鮮で作られた『荷子』の版本・写本は確認されず、現在韓国に残っているのは中国と江戸の版本のみである。中国版本の場合は明版をはじめ清人注釈書の版本が多数あり、江戸の版本は主に旧韓末か植民地時期に伝入したものと判断される。このような朝鮮刊本の不在は、朝鮮における諸子書刊行の実態の一端を示すものと考えられる。朝鮮時代の学者は節略本を通じて諸子書を読んでいる例もみられるので、本年度の書誌調査においては、朝鮮における荀子書の受容様相をより正確に知るために、単行した荀子書のみならず、類書や節略本(『百家類纂』『諸子品節』『諸子奇賞』など)にまで調査の対象を広めた。また、昨年度に引き続き、個人の文集・朝鮮王朝実録・経学関係著作などから荀子関連記事を収集・整理し、「朝鮮荷子学資料集成」としてまとめた。資料集成では関連記事を主題別に分け、時代順に整理することによって朝鮮荀子学の実態を解明するための基礎資料を提供しようとした。本作業を通じて、朝鮮時代の荀子思想の理解および受容様相に対する新たな知見が得られた。すなわち、孟子の性善説を「道統」とする朝鮮の学者は荀子の性悪論に対しては厳しい批判を展開するが、一方、政治・経済・法律・軍事・農業などの諸分野にわたる経世論においては荀子思想に一定の評価を与え、礼学や典制制度などの名物考証においても『荀子』は多く引用されていることが判明された。その詳細は"Xunzi and Pre-Modern Korean Thinkers"との題目で、アメリカの学者であるEric Hutton氏編のDao Companionの一章として掲載される予定である。
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