本研究は、現代の批評動向をふまえた上で、ブロンテ姉妹の作品の文化史・社会史的位置づけを再検証するために、個々の小説の何がどのように、さまざまな文化の中で受容されてきたかを明らかにすることを目的とする。ブロンテ姉妹の名は英文学の主流に組み込まれ、純文学史上に確固たる地位を築いているが、その作品は同時にローカルチャーとして、大衆的な舞台や映像というメディアによって、絶えることなく文化的に再生産されつづけてきた。小説作品の意味を逆説的に社会・文化的文脈から検証することが本研究の目標であり、平成21年度は、出版直後から舞台化され続けている『ジェイン・エア』を中心に研究を進めた。今までに21世紀の翻案研究(舞台並びにテレビドラマ研究)を行った実績をふまえ、21年度は、20世紀にもっとも多く上演されたヘレン・ジェロームによる脚本を検証し、日本ブロンテ協会全国大会で研究発表を行った。ジェロームの脚本はイギリスで初演された後アメリカに渡り、1980年代まで繰り返し演じられている。その特徴は極めて保守的で女性らしいヒロインの造形にあるが、メロドラマというキーワードで分析することで、女性が主な観客となるこのジャンルでは、通常の舞台化に見られる男性による女性の客体化という権力闘争が巧妙に回避され、原作のラディカルさを逆説的に表現した20世紀のヒロインが造形されていることが立証された。そして、家父長制に強く抗議したラディカルな原作のヒロインが、フェミニズムがもはや斬新でなくなった時代のジェロームの舞台では、一見保守的に姿を変えつつも、逆説的に原作の主張を見事に表現していることを論じた。 本研究発表は論文として発表するために現在準備中である。また、『ジェイン・エア』の19世紀の翻案についても現在研究を進めており、『嵐が丘』の現代の翻案についても6月に講演をする予定である。
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