本研究計画の初年度である2009年度は、申請者がこれまで中心に扱ってきた旧ユーゴスラヴィアの作家ダニロ・キシュに関する研究成果の発表を主として行ってきた。第10回国際南東欧学会(International Congress of South-East European Studie)での研究発表、日本で初めてとなるダニロ・キシュのシンポジウムの企画(キシュ没後20年記念シンポジウム『失われた父を求めて-ダニロ・キシュ収容所の詩学』、東京大学、11月21日)、単著の出版(『境界の作家ダユロ・キシュ』松籟社、2010年)などがその例としてあげられる。さらに、本研究の主要目的であるポスト冷戦期の東欧文学研究については、前述の学会、2月の旧ユーゴ訪問を通して、資料収集や現地研究者との交流を積極的におこなった。申請者が企画者をつとめたワークショップ『東欧地域研究の現在、そして未来への展望』(東京大学、1月9日。地域研究コンソーシアム「地域研究次世代ワークショップ」2009年度採択)では、中央ヨーロッパ大学ジェンダー学科のヤスミナ・ルキッチ准教授を招待し、"Women's Writing in South-East European Literature"と題して講演をおこなっていただいた。ルキッチ准教授は申請者が研究課題としている旧ユーゴスラヴィアの女性作家ドゥブラフカ・ウグレシッチについての単著を出版予定であり、講演のなかでもウグレシッチについてとくに詳しい言及があった。さらに大阪大学では、"Yugoslav and post-Yugoslav Literature and Culture"と題して講演をおこなっていただいた(1月14日)。こうした研究交流を通して、初年度の研究目的である「ポスト・ユーゴスラヴィア」の問題の理解を深めることができた。
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