本研究では、日本語の疑問文とそれに関連する構文について、主に中世以降に焦点を当ててその歴史を記述するとともに、日本語の歴史と琉球語を対照することで、諸構文の関連性、及びそれぞれの歴史変化について、一般言語学に貢献しうるプロセスの解明を目指している。本年度は、この研究目標のもと、主に疑問の助詞カの歴史変化について、19世紀までの京阪語を中心に歴史資料の調査を行った。その結果、カは中古まではほぼ疑問の助詞として用いられていたこと、14世紀に文末で選言と意識される用法が発達し、その後15世紀以降名詞句の位置で選言の用法を発達させたこと、不定の用法は江戸前期から、副詞的な用法が見られることが分かった。この内容については22年度に、雑誌論文として公開する予定である。本年度の成果の公開としては、主に、カの間接疑問文の歴史変化と、ヤラの例示用法の成立について、学会発表という形で行った。前者では、カが元は「話し手指向的意味」を持っていたが、それを失っていく過程を示し、一般に「主観化」と言われている歴史変化の過程に反するものであるという議論を行った。後者では、ヤラの例示用法が文末から発達したことを示し、疑問からの派生を考えなければならないことを論じた。これらについても、順次雑誌論文として公開していく予定である。また、琉球語との対照についても調査を進めている。本年度は沖縄県宮古島に二度調査に赴き、話者15名(11集落)から聞き取り調査を行った。その結果、従来は指摘されていない肯否疑問文と疑問詞疑問文の使い分けや、間接疑問文の使用制約についてデータが得られたが、年齢層の絞り込みや日本語史との対照については、22年度の課題として残っている。
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