本研究は、日本語ピッチアクセントの産出と知覚にずれが起こる要因を追究することにより、日本語ピッチアクセントの性質を詳らかにし、ひいては人間言語の韻律特徴の在り方について追究することを目的としている。本年度の研究成果は、主に以下の2つである。 1.発話実験:音声学の実験でよく使われる音声データの収集法が、隣接分野の方言学では、自然な発話を収集するには適切でないと言われている。具体的には、「彼は_と言った」の様に、ターゲット語が引用助詞の前に来ると、その単語が強調されてしまうということである。しかし、このことを定量的に示す研究はないようである。音声データの収集に適切な方法を模索するため、ターゲット語が引用助詞または格助詞の前に来る2種類のキャリア文を用意し、録音した。結果、ターゲット語が引用助詞の前にある方が、格助詞の前にある場合よりも、アクセントの間違いが多かった。しかし、アクセントの間違いがなかった単語については、ターゲット語の発音に顕著な違いや統計的な有意差はなかった。 2.知覚実験:日本語のアクセントに関する情報は、主に基本周波数で伝えられると言われている。しかし、声調言語である中国語では、基本周波数が無くても単語を聞き分けることができたとの研究報告がある。このことに鑑みると、日本語でも基本周波数以外の音響特徴がアクセントに関する情報を伝えている可能性は十分に考えられるので、このことを調べる知覚実験の準備を進めている。本年度は、音声刺激を作成する方法をいくつか検討した上で、実際にコンピュータソフトで実験を組み立て、予備実験を実施した。予備実験では、基本周波数以外の音声情報がアクセントに関する情報を聞き手に伝達していることを示唆する結果が出ている。来年度は、単語数と被験者数を増やして本格的な実験をする予定である。
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