説教の受容の意識化という観点から、ウェールズのヨハンネスの説教術書に注目する本プロジェクトに関して、本年度はヨハンネスの説教術書写本の収集を継続して行いつつ、昨年度に行った、比較的良質であると判断されるBibliotheque Mazarine(パリ)所蔵写本に基づく本文転写を踏まえて、これまでに入手できた他の重要写本との部分校合分析を進めた。上述の作業と並行しつつ、これまでに得られた知見に基づいて、説教受容に対する説教執筆者の意識の問題に関連して、平成22年6月に名古屋大学で開催された第2回西洋中世学会大会の大会シンポジウム報告を行った。同報告は、査読を経て、論文として『西洋中世研究』誌上で刊行された。また、平成22年7月にスペイン・サラマンカで開催されたInternational Medieval Sermon Studies Society Symposiumにおいて本プロジェクトについて発表を行ない、この学会における複数の専門家との議論を通じて、今後の研究の見通しと潜在的問題点に関して示唆を得ることができ、その後それに基づいて校合作業を進めた。ヨハンネスの説教書写本の校訂公刊に至るまでにはいましばらくの作業が必要であるが、主要写本に関してはテクストの異同とそれが意味するものについて一定の全体像を得たと判断している。また、中世に書かれた他の説教術書との比較のなかで、ヨハンネスの説教術書の記述の重要性も明らかになった。以上の成果について平成23年度に国内外での発表を計画している。
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