本研究の初年度である平成21年度は、主に基礎的な文献資料の整理・集成に重点を置いて研究を行った。研究計画に述べた、『源氏物語』古注釈書の菅原道真関連記事については、対象を『源氏釈』・『河海抄』・『岷江入楚』に絞り、ほぼ調査を完了した。また、これと併行して、菅原家・大江家の詩を含む、天神信仰関連の漢詩・願文などの一覧を作成した。更に、2010年1月22~23日の期間、京都北野天満宮の御好意により、同社所蔵『日蔵夢記』の文献調査を行い、デジタル画像資料として収録することにも成功した。 『日蔵夢記』は、すでに神道体系『北野』に翻刻され、ほぼ唯一の本文として通行しているが、初期天神信仰の資料であるだけでなく、『北野天神絵巻』類に見られる醍醐天皇堕地獄説話の源泉として、平安期の国風文化や神仏習合を考える上でも貴重なものであることからすれば、現状の本文研究の手薄さは否めない。本研究において、この『日蔵夢記』の画像データに基づき、神道体系本との校合を行い、本文の不審箇所を明確になしたえたことは、大きな意義を持つものと考えられる。なお、こうした研究成果は、ホーム・ページにて発表していく予定である。現在、ホーム・ページの開設は既に終えたが、データ等の入力作業の途中である。次年度は、アルバイトを雇うなどして、より迅速化に努めたいと考えている。 研究成果の発表としては、菅原道真や『日蔵夢記』関係の論文を含む、『源氏物語の史的回路』(単著・2009年11月25日刊行・おうふう)を出版することができた。また、韓国延世大学校からの招聘により、国際学術会議において発表を的る機会を得た。この発表を通して、天神信仰における帝釈天信仰の東アジア的広がりという新たな課題が見出されたことも大きな収穫であった。この研究発表の内容は、論文として2010年9月刊行の『ジャーナル・オブ・コリィアンカルチャー』に掲載の予定である。
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