本年度は、白居易の散文作品および『文選』を中心とする六朝文学の、平安中期における受容を並行して調査した。白居易散文の受容について具体的には、『白氏文集』「策林」を取り上げ、一条朝の明法家惟宗允亮の手に成る『政事要略』中に引用される「策林」を軸に分析を進めた。同時代の受容のありかたとの関連を探るべく、允亮と関わりの深い属文の貴族の日記、すなわち藤原行成『権記』と藤原実資『小右記』を徹底調査し、行成・実資といった一条朝の一部の貴族に「策林」を中心とする白居易の散文作品が受容されていたこと、またどのような散文作品を享受するかについて、明法家允亮の傾向と連動していることから、彼の影響力の強さを想定できることを分析した。この調査は、白居易韻文作品の受容に偏る近年の研究動向に対して、白居易散文の受容の様相を明らかにするものであり、一条朝の漢詩文受容のありかたの総体を解明することに寄与する。なおこの成果は、本年度には発表し得なかったが、平成22年度前期中に論文にまとめて発表する予定である。 六朝文学受容については、まず『源氏物語』の『文選』受容のうち、須磨巻にみられる『文選』古詩十九首の受容のありかたに注目した。古詩十九首の一首目は遠く離れた男女の詩だが、唐代の五臣注は、暗主に放逐された賢臣の嘆きを比喩すると注する。物語の脈絡から、『源氏物語』の『文選』古詩引用が『文選』五臣注の解釈をふまえたうえでの引用と思われることを確認した。そして、この『文選』古詩が同時代男性文人達にどのように受容されているか、その際五臣注がどれだけ強く意識されているかの調査分析を進めた。この作業は平成22年度にも継続する。
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