今年度はまず、昨年度、ベルリン国立図書館・新聞部門で調査・収集を行った資料を整理した。それによって、当該資料は、これまでの研究が村山のベルリン体験を論じる際、ほぼ唯一の典拠となっていた自伝の記述に修正を迫るような資料を含んでいることが確認できた。更に、この調査結果を裏付けるため、共立女子大学所蔵の北村喜八旧蔵図書の調査を行った。この研究成果を取り込んで、村山の初期戯曲に関する論考を完成させ、「東京外国語大学論集」81号に発表した。本論文では、初期の村山の戯曲に見られる、特異な表現主義受容のあり方を、日本におけるプロレタリア文学の発展過程と関連させながら論じた。 また、昨年に引き続き、当時の新聞、雑誌記事を主な資料として、大正期の日本における表現主義受容・紹介の傾向を考察した。その際、すでに叢書の形で集成されている資料を補足するため、近代日本文学館及び東京芸術大学図書館で資料の調査と収集を行った。収集した資料には昨年の研究を引き続かたちで順次分析を加え、大正期における「表現主義」の紹介・受容の一般的傾向が明らかになってきたのだが、関係資料が非常に多く、内容も多岐にわたっていたため、今年度は分析を行うにとどまった。この研究成果は来年度以降、論文の形にまとめたい。 上述の研究の他に、表現主義や同時代のモダニズムの視覚芸術(絵画、写真、映画など)の日本における受容についても調べていた。この研究を応用する形で、京阪神におけるモダニズム写真家たちが撮影した、1940年代に神戸に滞在していたユダヤ人亡命者たちの写真を取り上げ、1910年9月に、ドイツ文化会館で行われたシンポジウムで発表を行った。この発表原稿は来年度に出版予定である。
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