石垣島(沖縄県石垣市)でのフィールドワークで収集したビデオおよび音声データをもとに、石垣市出身の話し手が自然会話とジェスチャーにおいて、どのように空間を表しているのかを考察した。フィールドワーク調査は、石垣島の様々な社会また空間環境で行った。その結果、石垣島出身の話し手の多くが東西南北の方位を用いた表現方法を高い頻度で使うことが分かった。具体的には、自然会話の言語使用においては東西南北を基準にした表現を使い、またジェスチャーの使用でも東西南北や位置関係に正確なジェスチャーが現れていた。しかも、石垣島話者は2つの空間指示枠(相対・絶対指示枠)をコードスイッチすることが明らかになった。話し手が好んで選択する空間指示枠は、コンテクスト特に聞き手の出身地や理解度に応じて瞬時に変化するものであることを例証した。また、ある空間指示枠の選択は、空間の言及指示や説明にとどまらず、グループ標識や参与者のアイデンティティをも指標することも指摘した。相互行為にみられる空間指示枠の使用が、話し手と聞き手(あるいは相互行為に参加する参与者)による間主観的な言語実践であると考察された。
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