1.研究目的 モーリシャスにおける言語使用状況を政治・経済的・社会的な状況の転移と照らし合わせて、今日の状況を分析する。(研究計画・調査1に該当) 2.研究方法 (1)文献研究 (2)国勢調査や経済データ分析 (3)教育政策、カリキュラム分析 3.研究成果 (1)英国による植民期(1810~1967) 植民時代の言語政策は、(A)英国政府・英国国教会による「従順な臣民」育成を目指す英国化・英語化運動、(B)仏系砂糖黍プランテーション経営者・カトリック教会による労働者への仏語・クレオール語促進、(C)インド政府とインド系年季奉公労働者によるインド諸言語を学ぶ権利要求、(D)アフリカからの奴隷とその子孫からなるクレオール系の経済的・社会的排除と最貧層化、などの要素が複雑に絡み合う。この四層の権力構造は、今日も(a)公用語としての英語、(b)義務教育の対象となる英・仏語、(c)「祖先の言語」として優遇されるインド諸言語、(d)公的地位が付与されないクレオール語、として反映され、モーリシャス社会のコミュナリズムの原因でもある。 (2)独立後-経済発展期(1968~1990) 独立後は多数派であるヒンドゥー系の政党が政治権力を掌握し、インドの言語・宗教・文化保護による自民族中心主義を展開する。繊維業を中心に急速な経済発展を遂げるが、英・仏語の主要な地位は受け継がれる。クレオール語は1970-80年代にモーリシャス独自の文化遺産・リンガフランカとして地位向上を目指す政治運動が起こる一方で、蔑視傾向は残り、日常会話以外での使用は限られる。 (3)グローバル期(1990~) 人的資源に頼る小国として教育、とくにグローバル市場に対応するマルチリンガル育成に力を入れる。観光業、繊維業、コールセンター業発展を重視する実用主義の観点から、英・仏語・インド諸言語・中国語を促進する。
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