研究課題
22年度は、初年度で考察した本研究が扱う問題の背景を基盤として、露清間の国境を越えて移動していた周辺諸民族の帰属と民族意識形成の問題を解き明かすことを目的として研究を進めた。初年度から継続して分析している、露清間の国境付近における土地の権利にかかわる紛争・調停についての文書史料からは、司法の場における牧地・農地の領有の主張から、帝国への帰属意識を見ることが可能になることが明らかになり、その見通しについて研究報告を行うことができた(「カザフの「慣習法」とビイの裁判」第7回中央アジアの法制度研究会、平成22年5月30日)。露清外交に見える移動について、当初ロシア帝国外交文書館での調査を計画していたが、十分な時間を確保できなかったため、カザフスタン共和国国立中央文書館において史料調査を行うこととした。結果として、19世紀後半におけるロシア=清朝外交交渉の中で、両国間の境界を越境していた集団について言及のある貴重な一次史料を収集することができた。研究の成果として、まず、19世紀半ばまでの、いわば前段階の時代について、中央アジアにおける諸民族と露清帝国との関係を、とくにカザフ遊牧民の露清国境を越えての移動に焦点を当て、単著として整理することができた。次に、19世紀後半以降の状況については、カザフ遊牧民の一部族集団に焦点を当てて、50年ほどの期間を取って、その間にその集団が露清間で移動を繰り返し、その過程においてどのように集団としての意識を形成していったのかを具体的に示す口頭報告を行った(中央ユーラシア学会)。以上により、本研究が目的とする、露清境界画定から周辺諸民族の帰属・民族意識形成にいたる過程の解明について、ある程度の見通しを得ることができたと考えられる。ただし、カザフ以外の民族集団についての分析は十分に行うことができなかったため、比較も含めて今後の課題となっている。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
Memoirs of the Research Department of the Toyo Bunko
巻: 68 ページ: 63-99
Reconceptualizing Cultural and Environmental Change in Central Asia(M.Watanabe and J.Kubota eds., Kyoto : RIHN)
ページ: 163-197