本研究は古写本を用い、源信(942-1017)の著作を文献学的に再検討するものである。特に現在の流布本とは異なる跋文を有する平安・鎌倉期写『往生要集』『要法文』を対象とし、書誌学的調査・翻刻・資料批判を行い校訂本文を作成する。さらに跋文を解読することで、成立年次・撰述状況に対する、従来の誤った認識を訂正し、源信の著述群の中へ正しく位置付ける。これらの文献学的検討を通じて、源信の思想を正しく分析・検討する為の基盤を築くことを目的とするものである。 本年度は初年度に作成した「『往生要集』『要法文』現存古写本所在リスト」に則り、新たに京都、六波羅蜜寺蔵『要法文』の原本調査、調書の作成を実施した。この六波羅蜜寺蔵本に、既に収集済みの諸本データ(真福寺蔵本、金剛寺蔵本、西教寺蔵本、金沢文庫蔵本、東京大学史料編纂所本)、身延文庫蔵本(初年度に原本調査、撮影を実施)を加え、資料批判を行い校訂本文を作成した。これら平安・鎌倉の古写本と、流布本である江戸刊本の跋文を比較検討し、読解することで、従来『要法文』の撰述年次・由来が誤伝されてきたことを実証し、訂正した。 従来、源信の思想研究は専ら『往生要集』を用いてなされてきたが、源信の思想の解明には、倶舎学という視座が不可欠である。源信の倶舎学水準の検証に際し、『要法文』の読解は非常に有効であり、本書の文献学的研究は、以後の源信の思想研究の基盤として大きな意義を持つことが予想される。 なお本研究の成果は、「『要法文』撰述年次の再考」と題し、浅井成海編『日本浄土教の諸問題』(永田文昌堂、2011年8月刊行予定)に投稿、掲載された。
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