本研究全体の目的は、リーディングを通して付随的に既知語の意味が学習されるのかを調べることである。この目的を達成するために平成21年度はまず学習者にとって少なくとも1つの意味が既知である語について、他の意味がどの程度習得されているのかを調べた。このため、まず日本人英語学習者用の語彙リストであるJACET 8000のレベル1に掲載されている語で、且つ2つ以上の異なる意味を持っている単語7語を選択した。この際、「多義ネットワーク辞典」を参考として選択した。実験の結果、参加者の中でも語彙サイズが比較的大きい学習者(3000語前後)であっても小さい学習者(2000語前後)であっても、その他の意味の定着割合が中心義の定着割合よりも有意に低かった。また、語彙サイズ、中心義についての知識、その他の意味についての知識の相関係数を調べた結果すべての値が有意であったが、語彙サイズとその他の意味についての知識の偏相関係数は有意にはならなかった。したがって、単語について複数の意味の知識を持つことと語彙サイズの関係は小さいと考えられる。しかし、扱っている語が既知語であるため、学習者がどの程度目標語を知っているのかについての個人差が大きいため、付随的語彙学習の研究を行うよりもまず、既知語の語彙知識の構造を詳細に調査することが必要であると判断した。 上記の実験結果を基に、中心義ではあるが日本語の訳語が2つ以上あり、かつ中心義以外の意味についての訳語も3つ以上ある単語計4語について、単語の中のどのような意味がより学習者に理解されているのかを調査するための実験を行った。この結果、訳語として使われた日本語の関連度よりも、意味が中心義か、それとも中心義以外の意味かという要因の方が学習者の語彙知識に大きな影響を及ぼしていることが判明した。 更にこの研究結果に基づいて、中心義とその他の意味に焦点を絞り、日本人英語学習者が中心義を知っており且つその他の意味を知らない場合について、その目標語をどのように解釈するのかを調査した。具体的には、意味同士の関連性が強い多義語、意味同士の関連性が弱い多義語、そして意味同士の関連性が無い同音異義語の解釈を比較するためのデータを収集した。
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