本研究は、ニホンザル・チンパンジー・ヒトのコドモの野外での物を伴った社会的遊びにおける相互行為を観察し、「規則(に従うこと)の起源」に対する仮説の構築を目的とする。 宮城県金華山に生息する野生ニホンザルのコドモを対象として、物を伴った社会的遊びに関するデータ収集を短期間行った。さらに、これまでに得られたデータを分析した結果、物を伴った社会的遊びでは、価値が低い物が伴われることや、遊びに使用される物に遊びのターゲットとしての価値がメンバー間で共有され、その結果、明確に役割の異なる相互行為が、長時間持続することが示唆された。 またマハレ山塊国立公園に生息する野生チンパンジーを対象として2009年5月から6月にかけて1カ月半、物を伴った社会的遊びに関する調査を実施した。前年度の予備調査からチンパンジーのコドモはニホンザルのコドモと異なり、単独でも対物遊びをすることが多いことが予想されたため、単独で対物遊びをする場合と、社会的に対物遊びをする場合に分けて、データを収集した。単独での対物遊びの場合、遊び方は物体の形状に依存しさまざまなパターンが認められた。一方、社会的遊びの場合には、「木の形のもの」が伴われ、遊びの誘いという利用法が多く、長時間にわたって遊びのターゲットになる場合は、ニホンザルに比べて少ないことが示唆された。 これらの結果から、ある意味でヒトのコドモの物を伴った社会的遊びのありようは、チンパンジー、ニホンザル双方の特徴を併せ持っているといえる。物体の価値とコドモの行動や相互行為との関係は、規則の起源を考える上で重要である。
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