本研究は、これまでほとんど研究の進んでいない16世紀末期におけるカトリック詩人ミシェル・キリアンを中心に取り上げ、フランス・ルネサンス期のアレゴリー詩法の変容を辿ることを目的とする。平成21年度の研究計画において予定していたのは、(1)宗教改革・反宗教改革の影響についての研究、そして(2)政治状況についての調査、すなわちアンリ四世戴冠後かつナントの勅令前という時代における、パリ大学神学部(検閲)と宮廷の影響関係についての調査である。とりわけ今年度は(2)に重点を置いた研究となった。今年度とりわけ注目したのが、キリアンの『黙示週』中の一章「6日目」、すなわち「最後の審判」を中心主題とする章である。キリアンはこの主題に含まれる様々なモチーフを描く際、主な源泉は聖書としつつも、その表現法をモチーフに応じて変化させている。つまり表現法が混在しているのだが、一方でこの「6日目」は、他の日には見られないほど多くの同時代への言及、そして時代への賛美もが暗示されている。キリアンの混交文体がこの新たな時代への移行と重ねあわされるにおよび、「6日目」では16世紀末のキリアンが同時代の文学のみならず社会状況にも大きく影響されつつ、様々な詩的文体を咀嚼した上で混交し、新たな文体を創り上げていることが明らかとなった。またそれが、プレイヤッド派そしてデュ・バルタスの単なる亜流で終わっていないことを示したことは、今後の16世紀の文学史の書き換えを促す一つの要因となり得る。今後は2月にフランス国立図書館で行った文献収集をもとに、ロンサールからの詩法の変遷に重点を置き、検討していく予定である。
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