研究概要 |
本研究は、16世紀末期フランスにおけるカトリック詩人ミシェル・キリアン(Michel Quillian, ?-1614)を中心に取り上げ、その詩法を検討することで16世紀フランスにおけるアレゴリー詩学の変遷をたどるものである。平成22年度の研究計画において予定していたのはこの詩人の伝記的調査、またキリアンの作品『黙示週』(La Derniere Semaine)における宗教改革・反宗教改革あるいは政治の影響についての研究であった。まず詩人の伝記的調査について、キリアンに関する新資料は発見されなかったが、17世紀以降に出版された書誌を包括的に検討、アンリ四世周辺の法官貴族の異動を調査し、アンリ四世の国王秘書官Michel Quilienが、『黙示週』の作者であると同定するにはなお決定的な証拠を欠くと結論づけた。 さらに『黙示週』に対する宗教改革・反宗教改革の影響については、『黙示週』の序章「第1日目」を中心に、そこに見られる「信仰」そして「理性」の在り方を検討することで明らかにしようとした。「第1日目」は、これから詩人が歌う詩が「夢」であることを示す導入部だが、詩人はここで「世界の終末」を歌うということの困難さを歌う。その内容が神の司る領域である主題を歌う際には、理性によって天に近づこうとすることしかできないからこそ、詩人は「類似」「根拠」そして「推論」を用いる「理性的」な方法によって天に近づこうとするのだとする。キリアンは「第1日目」でこの方法を徹底して推し進めるが、このように真に理性的な詩人たろうとした点にこそ、宗教対立や王家の変遷に直面した詩人の独自性がみられるというのが本論において導き出された結論である。そしてこの理性重視の詩法が前世代の詩法と断絶したものではなく、ロンサール以降のアレゴリー詩法にその出自を持つことを、両者の比較によって明らかにした。
|