バイリンガルが日本語と英語の間で言語を切替(コードスイッチング)している発話を収集し、文法的構造面での分析をするのがこの研究の目的であり、2年の研究期間の初年度はデータの収集、書き起こしを始めることに重点を置き、2年目はバイリンガルデータのコーパスの構築と、分析にとりかかることに重点を置いた。初年度に収集した会話データ約1時間ずつ13枚のDVDのうち、初年度は7枚、本年度は3枚の書き起こしを行い合計10枚、約10時間、1万文を超えるバイリンガルによる発話文のコーパスとなった。 データは一語一語に日本語か英語かの言語のタグ付けを行い、Muysken(2000)の枠組みを使い、母体言語がありそこに他の言語を挿入する、というinsertion(挿入)パターン力・、母体言語そのものが文の途中で切り替わるalternation(交替)パターンなのか、まず分類を行った。挿入パターンに関しては、Myers-Scotton(2002)のMLFモデルで説明できる場合が多いが、日本語の助詞などをどのように分析するかについては、新たなモデルを提唱していく必要性があると考えられる。難波(2008)で行ったバイリンガル児のケーススタディの縦断的研究では、英語が母体言語となることが多かったが、本研究では、英語・日本語どちらが母体言語になるパターンが見られた。altemationのパターンでよく見られたのは、ディスコースマーカーや英語の付加疑問、日本語の終助詞といった語用論的な要素の前後でコードスイッチングが起こりやすいということである。発話者がバランスバイリンガルである度合いが低い場合は、insertionのパターンが多くみられるが、度合いが高くなってくると、insertionに加えてalternationが起こる回数が多くなり、母体言語そのものの切り替えが頻繁に起こっていることが観察された。
|