1.具体的内容 (1)立命館大学『ARC浮世絵データベース構築システム』により、研究者限定ではあるが、世界有数の美術館所蔵の浮世絵およそ25万点の検索が可能となった。これにアクセスし、近世日本社会で広く共有された視覚文化としての浮世絵に、「他者」がどのように表象・視覚化されたかの検証に着手した。21年度には、「他者」の代表例として、役者絵に表現された「髭の意休」、「毛剃り」、「天竺徳兵衛」や、「唐人」などに、どういった視覚的特徴が共通して使われているかを、試験的ではあるが体系的・網羅的に調査した。 (2)これにより、中国風の龍、蝦夷錦、更紗、ボタン、珊瑚、黒船、巻き毛、赤毛等が、「他者性」のシンボルとして、江戸時代後期を通じて、広く共通して使われていることが判明してきた。 (3)現在、こいうった情報をデータベースに整理・蓄積している最中であり、これにより、江戸時代の「他者」の視覚的構築のメカニズム・カテゴリー化について考察を深めていきたい。また、22年度には、さらに多くの「他者」の視覚的表象をこの考察に含めていきたい。 (4)上述研究と並行して、データベースの様々な機能(ユーザーメモ、付箋型機能、キーワード機能、ArtWiki)を試験的に利用し、二方向型インターフェイスについてフィードバックを行った。 2.意義 イメージ・データベースを体系的・網羅的に利用することにより、浮世絵の生産・消費に関わった社会集団とその文化の研究に、即ち、視覚文化研究に対するデジタル・ヒューマニティーズ的アプローチの有効性を検証していく。膨大な情報の蓄積から得られる知見と、確固たるデータに裏打ちされた科学的論証は、従来型の美術史研究に多大な示唆を与えるものである。また、二方向型インターフェイスを利用した、研究者自身による二次的データベース構築によって、独創的な研究方法・研究成果を模索する。
|