平成21年度は、「中世日本の朝廷儀礼の分析から帰納的に公武社会構造の復原・解明を目指す」という研究目的に沿って、下記の研究・調査を遂行した。 上記目的を実現する手法として、本研究では、中世日本における特定の朝廷儀礼(「拝賀」と呼ばれる拝礼儀礼)に焦点を定め、その儀礼への室町幕府将軍(特に、朝廷・幕府を統一的に支配し「室町殿」と呼ばれた3代目足利義満以降)の関わり方に関する基礎的事実を確定し、その歴史的意義を解明することを目指している。この手法に基づき、本年度は中世日本の古記録を対象として、すでに公刊されている古記録については網羅的に、また未公刊の古記録については所在が確認されたものの一部について、各種所蔵機関へ赴いて現物を実見調査した。この調査により、「室町殿」が当事者として関わった「拝賀」儀礼の基礎的情報がある程度充分な分量蓄積され、22年度に予定している総合的な考察の準備がほぼ整った。かかる研究環境整備は、従来断片的に収集・利用されてきたにすぎない当該問題に関する史料群に、一定度の網羅性を確保するものであり、その総合的考察を行う重要な基盤となる。 上記を踏まえ、21年度は、本研究の材料たるにとどまらず学会で早急に共有すべき重要性を有すると判断した未公刊の古記録の一部を、活字化・公刊した。また本研究で課題とした問題を解明するにあたり、最も重要な「儀礼の場」として明らかにされておくべき中世京都の空間構造について、研究代表者の既発表の研究を整理・改訂した上で大幅に新稿を増補し、現段階での研究水準を明らかにする著書をまとめ、刊行した。
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