本年度の刊行された成果としては、『史学雑誌』において、「古典期オスマン帝国における正統の創造-オグズ伝承の分析から-」と題した論文を発表した。これは、オスマン帝国人の歴史認識の根幹をなす、トルコ民族のオグズ伝承に関する起源意識について、これまで指摘されてこなかった視角から新しい見解を提示した物である。 また学会発表としては、日本オリエント学会において「『トルコ史概要草稿』の分析:トルコ共和国公定歴史学についての一視角」という題目で口頭発表を行った。1930年代に提唱されたトルコ共和国公定歴史学については近年に幾つかの研究が著されているが、本報告では、新史料である「トルコ史概要草稿」を利用して、公定歴史学に関する先行研究に、根本的な修正を迫うった物である。 また海外調査としては、8月および2月に一ヶ月間ずつ、トルコ共和国において史料調査を行った(科研費ではなく自費で渡航・滞在した)。両時期とも、イスタンブルのアタテュルク図書館およびバヤズィト図書、そして首都アンカラにおいてはトルコ歴史協会付属図書館および共和国古文書館を利用、関連史料の収集に努めた。また滞在期間中は、単に史料収集のみを行うのではなく、現地の研究者との交流及び情報収集に努めた。とくに、トルコ歴史協会会長アリー・ビリンジ氏の面識を得ることができ、トルコ歴史協会の初期の運営に関する史料について、その調査を約束して頂いたことは大きな成果であった。
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