本課題の目的は第一に、日本古代の木簡を中心とした多様な異形字における筆画のあり方の把握及びこれを生成する場、位相の分析による文字使用の実態把握と文字意識を明らかにすることであり、分析に際し、史学、考古学、中国文字学等に関する情報、知識の収集を進あ、日本、中国の他の文字資料も参照しながら特徴をとらえていくことである。第二は、これらの成果を基礎として、実態に即した異体字研究を再構築することである。従来の日本の異体字研究に不足な部分を中国文字学から摂取、応用することによって、より体系的な記述を目指すものである。今年度は、情報収集、データの整理を中心とし、1.字形分析に必要な、木簡の筆画に関わる情報の収集と検討2.資料収集と字形分析データの蓄積3.これまでに収集してきたデータの再整理4.史学、考古学、中国文字学に関する知識、情報の収集を行った。中国文字学の情報収集については、中国に1回渡航し、資料収集を行った。また、研究会での口頭発表を3回行い、データ整理の指針を確認するとともに、中国資料との比較の足がかりを模索した。また、木簡資料と同時代の成立ながら後世の写本にみられる『万葉集』の写本の字形との比較も行い、本研究の応用への可能性も試した。これらの成果およびこれまでのデータの再整理の成果をふまえ、論文2件を執筆した。1件目は、木簡資料を中心に扱い、漢字の部分と全体に対する筆画の意識をさぐった。2件目は、これまで金石文等の刻書の類や正倉院文書において調査していた例に木簡の例を加えたものである。これらの成果によって、本課題の遂行に必要な情報収集と基本的な枠組みに対する検討が出来た。
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