2010年度は、日本の隣接大陸部での資料調査を重点的におこなった。前年度には日本(古本州島)側の九州および中部・東北地方にて資料調査をおこない既往編年の検証・補強に努めたが、2010年度は、北海道含む大陸側の考古資料を調査し古本州島の資料と比較することが目的であった。調査地は当初より計画していたロシア極東のサハリン州および沿海地方における調査である。サハリンでは9月に開催された国際シンポジウムにて、サハリン州立大学所蔵資料の調査に加え、前年度の成果発表も併せて行うことができ、その時点までの成果に基づく本研究の成果の見通しも提示できた。10月の沿海地方調査では極東大学博物館所蔵資料の見学を通じて、古本州島との比較データを得た。こうしたデータをもとに、朝鮮半島のデータも参照しつつ古本州島編年と大陸側編年の比較対照をおこなった。 結果として、文化的要素は大陸側と北海道で共通点が多く、古本州島南部はそれらと共通の要素を有しつつもやや異なる地域であり、古本州島北部はその中間的存在として把握できることが判明した。これらの共通点と相違点はおおむね自然環境(植物・動物相)の差異と対応しており、それらとの相関性を推測させる。自然環境データは近年蓄積がめざましいためこれを集成し、考古資料から推測される過去の人間行動と対比しながら、古本州島での人間行動の多様性・特殊性の形成過程を説明し、また大陸部との違いの生態学的背景を説明する見通しを得ることができた。本研究のこうした成果は、著書および論文として公表済み、ないし公表が決定している。
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