本年度においては、昨年度に行った予備的研究を基盤として、さらに関連判例の分析を進めるとともに、現地におけるヒアリング調査を実施して、1998年人権法がイギリス都市計画法制に与えた影響を多角的に考察した。 まず、関連判例の分析においては、人権法が裁判所に対して、人権に関する事案の場合、ヨーロッパ人権裁判所の判例等の参照を義務づけていることから、国内裁判官はそれらを参照するものの、必ずしもそれらを消化しきれておらず、形式的な引用にとどまるものも多く、未だ、人権法が都市計画裁量に与える有意な影響を抽出するには困難な状況にあると考えられる。とはいえ、このことは、これまでの都市計画実務に対して、人権法が大きな制約としては機能していないことを示すものでもあり、こと人権に関する限り、これまでの都市計画実務が、その裁量権限に対し、自制的な限界を画してきた、と見ることもできる。 一方、イギリスの地方自治体において都市計画実務に携わる計画官僚等に対して行った現地調査においても、上記と同様の傾向を把握することができた。すなわち、人権法の都市計画実務に対する実質的な影響は、当初考えられていたよりも大きくなく、これまでの実務を追認するかたちの運用がなされているとされる。また、その理由としては、これまでの実務が、十分人権に配慮するかたちで行われていたことが挙げられており、形式的には、法は、行政庁に対して大きな裁量権限を与えているものの、その運用局面においては、その行使に、必ずしも限界のない自由があるわけではなく、一定の制約原理が働いていることが窺われるものである。 以上明らかになった成果はこれまでのところ公表していないが、近日中に、一定の論稿として発表する予定である。
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