本研究は、わが国におけるいわゆる素因競合論の再構成を目的とするものである。その手法として、第一に、ドイツにおける素因を理由とする減免責を否定する判例法理を再検討し、その意義・射程を正確に把握することを第一の目的とする。第二に、ドイツでの素因競合場面における賠償額減額の可能性・法理の探求を目的とする。その上で、わが国の素因競合論の再構成を試みる。本年度は、第一の目的である、ドイツにおける素因を理由とする減免責を否定する判例法理の再検討を中心として行った。この再検討から明らかになったのは、上述の判例法理は、わが国のいわゆる因果関係論において妥当している法理であり、ドイツ法では加害者の責任をいかに肯定するかという観点がら議論が展開されているということであり、このような状況は必ずしもわが国での議論状況にリンクしていない、ということである。なぜなら、わが国では加害者の責任を認めた上での減額の法理をいかに構築するか、という点が問題とされているからである。また、上述の判例法理はある種の被害者保護を目的とする法政策的価値判断を表明したものであることも明らかとなった。以上の点から、続く問題として、ドイツ法では、法政策的価値判断を表明する判例法理と過失相殺などの賠償額減額法理との関係が問われることが示唆されるに至った。この点に関しては、平成22年度において考察を進める予定である。平成22年度の研究を進めるにあたり、本年度はマックス・プランク研究所(ハンブルク)に赴き、資料収集をするとともに、当該研究所員と意見交換を行った。その成果は、次年度の研究に盛り込む予定である。なお、本研究の一環として、被害者の心因的要因が競合した場合の一例としてPTSD(心的外傷後ストレス傷害)の問題を検討し、新世代法政策学研究第3号にて「PTSD(心的外傷後ストレス傷害)と素因競合」のタイトルで公表した。
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